「そうだぞ、坊。父ちゃんも、爺ちゃんも、お前と血がつながっている。安心しなさい。何も怖がることは無いんだ。」
爺さまはそう言うと、父ちゃんのビールを飲む様子をうらやましそうに眺めてから、ひとくち茶豆を食べて冷たい麦茶をすする。俺はそんな二人の様子を見て、確かにこの人たちとの血のつながりを感じた。
すると、居間での話を聞きつけたのか二人分の足音がして台所の襖が開いた。
そうして、母さんと姉ちゃんが顔を出す。
それと同時に、俺の表情は暗くなった。
「あら、こんなに食べちゃって。もっと枝豆ゆでましょうか?」
「あ、ずるい。私の分の茶豆まで食べちゃって。お皿に取って置いて欲しいって言ったのに!」
そこには、顔の無い人間がいた。
目も鼻も口も無い。
それなのに、二人はしゃべっている。
「ちょっと、聞いてるの?」
そう言ってつるりとした顔で俺のほうを向く姉を、同じく表情の分からない母がたしなめた。
「もう、やめなさい。あなただって台所でさんざんつまみ食いしたでしょう?茹でてあげるから、ほら手伝って。」
そうして母に袖を引っ張られると、姉はしぶしぶと台所へと向かった。
やがて襖が完全に閉じられると、俺の顔からどっと顔から汗が噴き出した。
俺は、そんな顔を見られたくなくて下を向いた。
いつからだろうか。