小説

『浅草アリス』植木天洋(『不思議の国のアリス』)

 たまらなくなったアリスは、カートを手にとって手当たりしだい商品を積みこんでいった。たちまちカートが溢れかえって、商品がこぼれ落ちる。そんなことはお構いなしに、アリスはどんどんカートに商品を詰め込んでいく。
「気をつけるにゃ〜。これは罠にゃ〜」
 いつの間にか現れたうさにゃんがアリスに警告したが、アリスの耳にはもう届いていなかった。とにかく色んな物が欲しい。欲しくてたまらない!
 アリスはどんどん通路を進んで、今やカートは山のようだった。「引き返すにゃ〜」といううさにゃんを振り切って、ずんずんと先に進んでいく。そのうち、アリスは長い長いカウンターの前に差し掛かった。カウンターの中には人がずらりと並んでいて、アリスが持ってきたものを取り上げては、ピッと音のなる機械にかざして、袋に詰め込んでいった。まるで何かの機械的な工場のようだった。
 流されるままに進んでいくと、なんだか大きな表示板のついた機械の前に立たされた。アリスはそこに来てようやく気がついた。これはレジスターなのだ。表示板には見たこともない桁の数字が表示されている。アリスは大変なことに気がついた。(私、お金なんて持ってないわ!)
 アリスは怖くなって逃げ出そうとしたけれど、後から後からものが押し寄せてきて、容赦なくレジの方へと押し流された。
「うさにゃん!」
 呼びかけたが、うさにゃんはずっと奥のほうで商品にもみくちゃにされていた。なすすべもなく、アリスはどんどんとレジの方に流され、ついにレジの前を通り過ぎた。その瞬間、けたたましいサイレン音とともに、女の人の声が響き渡る。
「お金も持たずにレジを過ぎようとした不届き者がおりんす! すぐにひっとらえるでありんす!」
 その瞬間どこからともなく太った猫の集団が現れて、アリスを取り囲む。みんなうさにゃんに似ていたが、耳は普通の猫耳だった。アリスはたちまち捕まってしまった。

 * * * * * * * *

 アリスが連れて行かれたのは、大きな寺院のようなところだった。砂利の敷き詰められた広場のようなところで、逃げられないように両側を猫の集団に取り囲まれている。右側の猫は右手をあげていて、左側の猫は左手を上げている。みんな先にある建物を見上げていた。
 建物には大きな階段があって、その階段の先にものすごく派手な着物を着て、結い上げた髪には後光のような飾りをさした綺麗な女がいた。その両脇には、とてつもなく怖い顔のいかつい男が立っている。向かって右の男はふわふわした羽衣のようなものを身につけていて、左の男は太鼓のついた輪っかのようなものを背負っていた。

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