ニャ〜〜〜〜
ものすごい声があたりに響き渡り、ヲタクも人だかりも、驚いて固まった。激しいダンスが一瞬にして止まって、あたりが沈黙する。
「いまにゃ」
言われるまでもなく、アリスは一目散にかけ出した。足元のトンネルをかいくぐって、輪の外に飛び出す。「萌え〜」という声が聞こえてくるのを尻目に、振り返りもせずに一目散にその場を逃げ出した。捕まったらきっとまた踊らされる。アリスは細い路地に逃げ込んだ。
* * * * * * * *
アリスはしばらく走り続けて、裏道のようなところを抜けて、ようやく広い通りに出た。
全く大変な目に合っちゃったわ、と思ったけれど、新しい踊りを覚えたのはちょっと嬉しかった。(人力車に戻ったらシャーロットに自慢してやろうっと)
けれど、通りはなんだか不思議な空間だった。周りを埋め尽くしているのはとにかく食べ物に関する道具ばかり。あらゆる食器、調理器具、什器、食べ物にコーヒー、その他色々。
中でもとりわけ目を引いたのが、本物の食べ物そっくりのオブジェ。スパゲッティーからお菓子まで、あらゆるものがそろっていた。あまりによく出来ていたので試しにショートケーキをこっそり舐めてみたけれど、全く味がしなかった。
それでも、見ているとどんどんお腹が空いてしまいそうだった。(きっとそうやってお腹を空かせる罠なんだわ)アリスはこのままだとお腹が空いてたまらなくなりそうだったので、偽物が見えない路地に逃げこんだ。
その先にあったのは、ありとあらゆる刃物だった。太いものから細いもの、普通のもの、中国人が使うような幅広のもの。とにかく刃物という刃物がなんでもそろっていた。
ドンッ、ドンッ、ドンッ
重々しい音が響いた。アリスがその音の元を探すと、カウンターの向こうにいる大男がとんでもなく大きな包丁をふるっていた。
その男はまじまじと見つめるアリスの目線に気づいて、にやりと笑った。
「お気に入りのナイフはみつかったかい?」
「ええ、そうね、でもあんまりたくさんあるから、選びきれないわ」
「そうかい。一本あるととっても便利だよ、ぜひ選んでおくれよ」