小説

『浅草アリス』植木天洋(『不思議の国のアリス』)

 アリスがぶつくさ言っていると、目の前にひときわ盛り上がった人だかりがあった。何だろう? なにか面白いことでもやってるのかも。
 アリスが四つん這いになって何十本もある足の間をくぐり抜けると、小さなスティックを持ったおじさん(お兄さん?)が三人、横一列に並んで足を開いて立っていた。
 アリスは思わず吹き出した。
 なにせ髪型はオカッパ、長髪、カリアゲで、アメリカ映画の荒くれ者のようなバンダナを額に巻いているのに体はひょろひょろに細くて、色違いのよれよれのチェックのシャツを着て、丈の足りないベージュのズボンをはいていたからだ。それにスニーカーは幼稚園からずっと履き続けたように汚れていて、生地もくたくただった。
 冴えない(というか超ダサい)大きい眼鏡に矯正器具をつけたような、そう、まるでナードの少年たちのようだった。
 学校ではいじめられっこカテゴリーに入る彼らが、どうして人混みの中でそんなに堂々としているのか、それをみんなが取り囲んで期待の目で見守っているのか、アリスにはまったくわけがわからなかった。なので、足の間から必死に目を凝らした。彼らが一体なにをするのか興味しんしんだったのだ。
 彼らは一斉にスティックの目の前まであげて、勢いよく折った。次の瞬間には激しく振る。すると、小さなスティックはほんのり光りはじめた。
「ライトセーバーにゃ」
 いつの間にか現れたうさにゃんが、アリスの耳元でささやいた。
「嘘。あんなちっぽけなライトセーバーじゃ悪者はやっつけられないわ」
 それでも彼らはまるでその気迫があるかのように、一斉に右手を振り上げた。
 それから素早く左腕を右腕とクロスするように真横に振り抜くと、左腕を一気に引き抜いて右腕を真下へ振り下ろした。つまり、簡単に言うと両腕で大きな十字をきったのだ。
 彼らは一心不乱にそれを繰り返して、観光客の目は釘付けになっていた。
「あれはなに? どういうdance?」
「ロザリオというダンスにゃ。ヲタ芸といって、ヲタクたちが崇拝するものの前で聖なる祈りを捧げているにゃ」
「Oh My God! じゃあ、あのdanceは全身を使って十字を切って、神に祈っているのね! あんなに熱心なクリスチャンがJapanにいるとは思わなかったわ!」
 アリスは一糸乱れぬ彼らのダンスをキラキラとした目で見て、うさにゃんはちょっと微妙な顔をした。

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