私たち夫婦は――そして親子は、仲が悪いわけではない。むしろ穏やかに過ごしている。不満などない。
ひとりになった家の中は風通しがいい。
天気もいいので、シーツなどの大きなものを洗っては豪快に干していく。常ならば爽快な気分にすらなるこの工程も今は義務として与えられた作業のひとつでしかない。
爽やかな風が吹き、その方に顔を向ける。あの先に小野さんのコンビニがある。
私はまるめた洗濯物を残したまま、ふらりと外へ出た。スーパーに買い物に行かなくては。
いつものルートを外れてコンビニの前へと続く道を行く。
通り過ぎざまに何気ない素振りを装って、店内を窺う。ガラス越しに見えるレジカウンターの内側には前髪の長い若者がひとりいるだけだった。
店長はお店には出ないのだろうか。昨日の姿を思い浮かべてみる。どのような服装をしていたのかも定かではない。だが、コンビニの制服ではなかった。やはり店頭には出ないのだ。
どうしよう。腕時計を落としたと言いに行こうか。
しかし、お客の一人でありながら事務所に直接向かうのもおかしい。レジの子に声をかけるか。ただ、忘れ物はレジ奥のバックオフィスに置いてあるのかもしれない。そうすると、そのまま手渡されて終わりだ。小野さんに会うことができない。
「七さんっ!」
誰からも呼ばれることのない呼び名。声のする方にはっと顔を向ける。
事務所へと続く階段の途中に手すりに乗り出した小野さんがいた。道を通り過ぎるトラックをよける勢いのままに私は階段を駆け上っていた。
「どうしてもかける勇気がでなくて」
小野さんの手にスマホとメモ用紙が握られていた。本当にかけようとして躊躇っていたらしい。私の視線を感じて、小野さんは自嘲気味にフンッと短く息を吐いた。
「おかしいですよね、昨日はちゃんと連絡できたのに」
一の万引きで呼び出された時のことを思い出す。