小説

『晦日恋草』霜月透子(『好色五人女』巻四 恋草からげし八百屋物語)

 それがどうだ。友達で生活態度が変わるとはよく言ったものだ。高校に入学すると同時に生活態度から服装からしゃべり方に至るまでまんべんなくだらしなくなった。
我が一族の手応えのない男共よりはよっぽどマシだと大目に見てきたのだが。万引きはやり過ぎだ。善悪の判断もつかない人間に育てるわけにはいかない。

 件のコンビニに駆け込む。自動ドアがのんきに高い音を鳴らした。
 レジにはやる気のなさそうな前髪の長い若者がいた。
「あのっ、八尾一がご迷惑をおかけしたようで」
 そこまで言うと、彼は「ああ」と口元だけでニヤリと笑い、「二階が事務所になっています。店長がそっちにいるので、外の階段から上がって下さい」と顎で示す。いつもならイラッとくる態度だが、今は愚息のことで頭がいっぱいだ。
外階段を上ると扉が二つ並んでいた。住居と事務所のようだ。そういえば以前は酒屋だった気がする。
 事務所のプレートがかかったドアをノックすると、二十代後半と思われる青年がドアを開けた。バイトの子だろうかと思っていると、「先程ご連絡差し上げた、店長の小野です」と名乗った。若い。酒屋をコンビニにして息子が跡を継いだといったところだろう。それにしても……。
「……あ。すみません。どうぞ」
 小野さんは立ち塞がったままだったドアを大きく開いて、私を招き入れた。
 普段は休憩室に使っているのだろう。壁際にはロッカーが並び、長机やパイプ椅子が置かれている。その椅子のひとつに不貞腐れた一が腰かけている。
「本人も反省しているようなので、ウチの方としても今回だけは……」
 小野さんが寛大なことを言う。一は足を組んで踏ん反り返っている。あれのどこが反省しているというのだろう! 小野さんの厚意に、私としては頭を下げるしかない。心から申し訳ないと思う。
「もういいよね。じゃあ」
 信じられないことに一はさっさと事務所を出ていく。
「ほんっとに申し訳ありませんっ!」
 深々と頭を下げると、小野さんは「いいんです、いんです」と私の肩に手を置いた。
「一応、現行犯っていうか、見つけちゃったからご連絡しただけで。コンビニって結構万引きが多いんですよ」と言ってへらりと笑う。

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