小説

『少女変身』三浦佑介(作)/三浦梢(原案) (『変身』フランツ・カフカ)

 何億光年の向こう
 人間たちは、今日もせっせと暮らしていて。
 未来に何かを残そうと、
 今日も楽しい現実を、
 素敵な過去を、
 抱きしめて暮らしている

 
 私は、毒虫
 ねえ?

 そう。

 サラサラサラ、少女の耳の奥で砂の音が聞こえた。やがて、それは、砂嵐の音となっていき、サーカスの愉快なジンタの音と混じった。ボリューム調節の壊れたラジオのように、少女の脳みそをゴッチャリとかき乱すのだった。かき乱されて、かき乱されて、その末に、静寂。その静寂の中、ぽっかりと浮かぶように、親友の声が聞こえた。
「あなたは人間よ。毒虫なんかじゃない。」
 あの口の端を曲げニヤリと笑う顔を、ふと、思い出す。

 なぜ、彼女はあのように自信たっぷりなのだろう。
 なぜ、あんな風に、にべもなく生きていられるのだろう。
 わたしの体は、こんなに毒にまみれているのに、
 わたしの体からは、瘴気にも似た匂いが漂っているというのに。

 そして少女は、混沌とした頭と体を整理するように、呟いた。

「…………私は毒虫なんかじゃない。私は、人間。
 そんなこと知っている
 案の定、毒虫にもなれやしない
 うごめく、うごめく、うごめきつづけ、蠢動するだけの、
 ただの、人間。」

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