迷路のようにぐにゃりと曲がりだし、色という色がまるで凶器のように、少女の脳髄を揺らした。もはや崩壊した、元、少女の部屋。少女は、そこから出ることすらできなくなり、誰かに会うのも怖くなり、増え続ける罪悪感と焦燥感。こんな自分が、なぜ存在するのか?存在していていいのか?よく今の今まで存在していられたものだ?お前なんかが?お前程度の存在が?明日はいいことあるとか思えたものだ。
ぐるぐるぐるぐる頭を回り、ぐにゃりと景色は曲がった。
いけない、しなければ、いけない、渦。グルグルグルグル。いつの間にか飲み込まれ、不安、ひどく寒く、恐怖なのか寒いのか、世界は今でもまだ存在しているのか、そもそも自分はここにいるのか、グルグルグルグル、頭の中をグルグルグルグルグルグル――
「…………。」
ハッ、と気がつくと逆さまから見た、少女の部屋。落ちる夕日が優しく部屋に差し込んでいた。
あの、砂の海に溺れるような日々から比べて、なんと穏やかな日々だろうか。
ぼんやりと、天井からぶら下がるだけの毎日。少女は、久しぶりに深呼吸ができたような気がしたのだった。
「存在は、観測される事によって確定する。」と、猫の量子力学者は言っていた。
ならば、観測されることがなくなった物体はどうなるのだろう?存在が確定しない、つまりは、あやふやな存在。ある意味では存在をしていないとも言えてしまう。
不確かな存在。
とりえずの概念の存在。
とりあえずの概念としての、つまりは暫定的な意味での「毒虫」。
その不確かさは少女にとって、ひどく居心地がよく、と同時にあたたかかくもあった。
しかし、そんな日々は砂糖菓子のように、あっけなく終わりをむかえた。
この部屋の扉を開くことが出来る唯一の親友といえる存在。彼女はいつも気まぐれにやってきて
「ま、のんびりやったらいいわ」
と、言い残し、風のように部屋から去っていくのだった。