小説

『少女変身』三浦佑介(作)/三浦梢(原案) (『変身』フランツ・カフカ)

 ぐるぐるぐるぐる回り、回り回った後に、気がついたのは、
「……実のところ、自分が毒虫になったということに、少しホッとしていた」
 ということだった。
 普段、カーテンを開ける事のない部屋だったが、毒虫になってからというもの、日の光が妙に恋しくなり、慣れない手足でなんとかカーテンを開けたのだった。
「陽が昇り、そして、陽が沈む」
 それだけのことがなんと綺麗なことだろう、と思った。
 こんな風に、日がな一日、日が昇って沈むことだけを眺めた事があっただろうか?
 と、少女の耳の奥で、サラサラッと砂が溢れるような音がした。
 かつて少女が人だった頃、いつも聞こえてた音。砂の音は、やがて脳の奥を引っ掻くような砂嵐の音となり、かすかにサーカスの愉快なジンタの音楽が聞こえ始めるのだった。脳をガリガリと響くような砂嵐の音と、愉快なジンタ。奇妙な音の組み合わせは、少女の自律神経をひどく衰弱させ、地面が天井なのか、天井が地面なのか、はたまた、壁という壁は、本当は壁ではなく布で覆っているだけじゃないか?など、様々な思考の乱反射が高速で行われ、今、自分がどこにいるのか?ということすらわからなくさせた。

 人として生まれたからには、
 何かをなさなくては
 結婚をしなくては
 子供を創らなくては
 人の役にたたなくては
 人には優しくしなくては
 お金をかせがなくては
 幸せにならなくては
 幸せにならなくては
 幸せにならなくては
 しなければ、
 しなければ、
 いけない
 いけない
 人として、人として、人として、

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