あとは、我らの大将が誰を選ぶかだが・・・・・・。
「他人の推挙は無用だ。我こそはと思う者は名乗り出よ。腕に自信がある者なら、一切の経歴は問わぬ」
白い旗の軍勢、その中央に陣取る大将が、浜全体に響く声を発した。
はたして、名乗り出る者は現れるのか。
ほとんどの者が口を結び、視線だけを徘徊させる中、
「拙者にお命じください」
痩せた馬にまたがった若い男が名乗り出る。手に持つ弓や背負う矢筒はそう悪くない品だが、鎧は中の下。兜を持っていないのか、頭を守るのは白い鉢巻のみだ。
――誰だ、あいつは。
そんな囁き声が浜に充満する。多くの者にとって、この男は無名であった。
味方でさえそうなのだから、敵が知っているはずもなく、沖の船団からも、浜と同種の囁き声が聞こえてくる。
が、小舟の男だけは違った。
わずかに口元を緩ませると、革手袋をはめた左手に、白い球体を持った右手を何度も打ちつけ始める。
馬鹿にしている・・・・・・にしては、ちと様子がおかしい。もしや、喜んでいるのか?
多くの者が訝しむ中、小舟の男と同じように笑みを浮かべた者が二人いた。
白の大将と、白い鉢巻の男。彼らは小舟の男と近い心境にあった。
大将は口元を隠して思考する。今回の勝負、実力の釣り合う者同士でなければ、つまらない。小舟の男が笑ったのは、嘲笑ではなく、白い鉢巻の男を好敵手たり得ると、一目で見抜いたからこそ。
なかなかどうして、敵ながら見事なり。もし奴が小者なら、強者との真剣勝負ではなく、弱者との児戯を好むだろう。
一方で、鉢巻の男も同じ理由で微笑しているようだから、これは心強い。一流は一流を知るということか。言葉をかわさずとも、気配だけで会話し、一瞬で互いを認め合っている。