お婆さんに言われてはじめて、お爺さんは、自分が若返っているらしいことに気づきました。あわてて桶に水を乞い、姿を写してみて、今度はお爺さんがびっくりする番でした。ぼうぜんとして立ちすくみました。やっとわれにかえると、
「お婆さん、これを見てや、この着物やこの履き物、この炭俵。」
「はれ、まあ、ほんまに、お爺さんのや。」
お婆さんもようやく納得。
「若返りの水やったんやな、あれが。」
岩の隙間から流れ出ていた水のことを、お爺さんの若者はお婆さんに話して聞かせました。
「ほんまに、若返りの水や。わたしもさっそく頂いて、しわを伸ばし、しみを消してきましょう。」
そう言ってお婆さんは、次の日さっそく山へ出かけて行きました。お爺さんの若者は、町へ炭を売りに出かけました。
「なんや、いつもの爺さんじゃないのか。」
あちこちで聞かれました。
「はい、わたしは親戚のもので、手伝いに来ております。」
お爺さんの若者は、そういってごまかしました。
その日の暮れ方、ほどほどに炭も売れて、お爺さんの若者は家に帰ってきました。お婆さんがどんな娘になっているのか。思っただけでも胸がドキドキしました。
「今帰ったよ。」
返事がありません。家中探しましたが、お婆さんが、いや、お婆さんの娘さんが見当たりません。
「おかしいなあ。」
お爺さんの若者は、心配になって、山へ捜しに行きました。
「おぎゃ、おぎゃ。」
お婆さんに教えた、若返りの水が出ているあたりから、赤んぼうの声がしました。お爺さんの若者が飛んで行ってみると、草むらに、見覚えのあるお婆さんの着物が見えました。赤んぼうの泣き声は、その着物の中からしていました。