んー、と英美はラグに転がった。ただ、このどことも交わっていない感じがとても心地いいと思った。何をしててもいい、何もしてなくていい、こんなところが居場所なんて思わないけれど、誰も知らない自分でいられるこの「密室」で俊と話しているのが気持ちよかった。制服を脱ぎ捨てたとしても俊の前で私は変わらない。
どうだろ、と返事をすると、俊が寝転ぶ英美を見下ろした。俊の髪の毛先が全て英美に向いている。そろそろ時間、という俊に、どうもありがと、と言って笑った。
「なんでこんなとこで外食なの?」
ストロベリールームメイトで本物の制服に着替えた英美は、歩きながら瑛子に言う。
「だってお父さんが携帯落として、届けられたのがこの駅前の交番だったのよ」
「あと2駅なんだから家のほうまで届けてくれたらいいのにー」
あーあ、と英美が空を見上げると、星が2つだけ見えた。
「そんな文句ばっかり言ってないで、家族で外に行くのも何ヶ月かぶりだし、おいしそうなお店わざわざ見つけたんだから行きましょうよ」
瑛子がスマホを縦にしたり横にしたりしながら歩く。英美はそんなことしなくてもルート分かるのに、と心の中で思う。
交番の前では博隆が英美たちを見つけて手を降っていた。
「英美はバイト終わったばっかりで疲れてるんじゃないか」
そう言う博隆に、英美は、まぁ大丈夫、と返事をした。
「バイトしなくてもお小遣いあげてるのに」
「まぁ社会勉強だし英美が好きでやってるならいいんじゃないか」
瑛子と博隆の会話を聞きながら英美はスマホを見た。朱里の明日の放課後遊びに行こうというメッセージに、大喜びのスタンプだけで返信した。
あのへんにお店が、と地図とスマホを交互に見て瑛子が言う。どこでもいいよ、と言いたくなるのを我慢して英美は、あそこに看板みたいのあるからあそこじゃない、と返事をした。お店の雰囲気を見て、瑛子は、料理を撮って、ひさしぶりに家族で外食♪ とブログ用の文章を考えている。