小説

『それぞれの密』柿沼雅美(谷崎潤一郎『秘密』)

 安いファッションを載せるのとはわけが違う。私は顔がいいわけでもスタイルがいいわけでもないのだ。それでも、年季の入った木製の棚をカメラの角度で品のあるアンティークに見せることができるし、へんなマグネットや英美の学校からのお知らせを貼りつけた冷蔵庫の横で、もらいもののルクルーゼをコンロの上に置いてそれっぽく撮ることができる。スーパーで買ってきたサラダに細かく刻んだトマトにくるみを載せて木のボウルに入れただけのサラダを瑞々しく見せることだってできる。
 社会から隔離された家の中で、気分を解放させてくれる「綿密」に作られた私だけの生活がこのブログの中にはあるのだ。
 今日は何を載せよう、と思う。築20年を過ぎて網戸もうまく閉まらないマンションや、食べるか食べてくるのか分からない英美や、何を食べても同じという博隆のためにつくる晩御飯を考えるよりも、センスがいい、簡単にできそう、食材だけじゃなくてインテリアも綺麗、と画面を通して思わせるための晩御飯を考えるほうがよっぽどメニューが思い浮かぶ。
 冷蔵庫を開けると、2日前の鍋の材料が残っている。家族満足ピリ辛鍋、というタイトルで書いたブログの中身だった。お正月の餅を1ヵ月以上たっても誰も食べず、お雑煮にしてみたら季節勘違いしてると英美に言われ、博隆に朝焼いて出してみるも、コーヒーに合わないしこれから仕事というのに喉に詰まると文句を言われた餅4つを、キムチ鍋に入れてとろっとろにした鍋は読者に好評だった。
 えのきがだらしなく袋から出ているのを見て、今日はスパゲッティにしようと思った。白ワインにも赤ワインにも合う和風バルパスタ! というタイトルにしようと思った。思いつくとすぐに書いてしまいたくなる。
 ―ワインにもぴったりな和風バルパスタ!― 先日のお鍋で残っていたえのきがそろそろピンチだったのでパスタに(笑)でもバルなのでちょっとおしゃれにしますよ(笑) 具は冷蔵庫の中の野菜で十分、必須なのはベーコンくらいかな。エキストラバージンオリーブオイルはちょっと多めに使います。簡単にさっとできるように顆粒コンソメ。お醤油を使って和風に仕上げるので、お酒の飲めないお子さんでもちゃんとメインごはんになりますよ。レシピは下を見てくださいね☆

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12