日は暮れたばかりだが、とはいえもう子供が出歩く時間ではない。それに、この街は子供が一人で来るような場所でもない。
零は子供の後を追って、何度か角を曲がり子供が入っていった路地に入った。こんなところを子供一人で歩き回るなんてトラブルのもとだ。事件が起きれば歌舞伎町に客足が遠のく。トラブル回避も歌舞伎町に勤めるものの役目だ。
薄暗い狭い通路をしばらく歩くと、小さな空き地があった。そこには公衆トイレがあって、赤いスカートがちらりと見え、女性用トイレに入っていくのが見えた。
トイレにいきたかったのか。それでも、子供一人というのはやはりおかしい。迷子になったのかもしれない。零はスマホを取り出すと営業メールを打ちながら、壁を背にしばらく待った。
女性をエスコートするのがホストの役目だ。彼女を交番まで無事に送り届ければそれで終わり。
しかし十分、二十分と経っても女の子は出てこない。
零はやれやれと片眉を上げる。
三十分経ってから壁から離れると、空き地に踏み込んだ。トイレのツンとした臭気がかすかに鼻を突く。トイレのそばまでいくと、女の子が入った女子トイレの3番目のドアをトントンとノックする。
「おじょーうさん」
警戒心を解くような、気さくな声。ホストは色々な声音を使い分ける。
「おうちに帰ろうか。送ってあげるよ」
「あーそびましょ」
中から小さな声がした。
「あそびましょ」
零は笑って言い返した。
「ほんとうにあそんでくれる?」
「いいよ。少しの時間ならね」
トイレの前で、零は言った。
「はーなこさん、遊びましょ」
トントントン。ドアを叩く。