小説

『伝説のホスト』植木天洋(『口裂け女』『カシマレイコ』『トイレの花子さん』『壁女』『メリーさんの電話』)

 ずいぶん乱暴な言い方だった。でも、女の声は細く弱々しい。うつむいている上、ぼさぼさの長い髪で隠れて顔は見えない。
「僕の手でよければ、いつでも」
 零はゆっくりと歩み寄ると手を伸ばして、ダンスにでも誘うかのように優雅に女の手をとった。夏だというのに、女の手はひやりとして冷たい。
「手……」
「手、すごく冷たいね。僕が温めても、いいかな?」
 零はそう言って、女の手の甲をそっと自分の頬に当てた。髭はきれいに剃られて、滑らかな肌触りが女にも伝わっただろう。
 女は手をぴくりと動かした。反対側の腕は、見えなかった。片腕がないのだ。
「不便だね、片腕がないと。僕がその片腕の代わりになっても……いいかな?」
「手……」
「さあ、こっちへおいで」
 そう言ってそっと女を引き寄せると手の甲にキスをした。
「あ、足……よこせ」
 女は今度はそう言った。
 零は微笑んで、慣れた仕草で華麗に片膝をついた。王子が、姫にするように。そして、シンデレラのガラスの靴を履かせるように女の片足を自分の膝にのせ、そっと撫でる。裸足の足は冷たかったけれど、つま先までなめらかな肌だった。
「綺麗な脚だね……こんなに綺麗な脚なんて、モデルでも滅多にいないよ」
「あ、あし……」
「脚もすごく冷えてるね。温めてあげるよ。最高に気持ちよくしてあげる」
 そう言って、零は女の脚にほうっと息を吹きかけた。熱いウィスキーの香りが、かすかに漂う。手を滑らせて、足首からふくらはぎまで優しくさすった。
「いつでも言ってよ。こうやって温めてあげるから」
「あし……」

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