真っ赤な血の色の口紅。それは耳まで引かれて、口はそこまで裂けていた。無惨に切り裂かれた皮膚はめくれて、歯や歯茎までもが見えている。
零はそっと顎に手を添わせた。
「歯並び、いいんだね。笑った顔も素敵だよ」
「私……」
「赤いリップ、流行ってるよね。よく似合ってる。すごく、セクシーだ」
零は声を潜めて、耳元で甘く囁いた。
「キスしたくなっちゃうよ」
「え、え……」
戸惑ったように、女が声を漏らした。
「きれい……?」
「綺麗だよ。好きになっちゃいそうだ……」
顎をくいと指先で持ち上げて、息がかかる距離で囁く。零の形のよい唇と、女の真っ赤な唇が触れ合いそうなくらいに近づく。
女の長い睫に縁取られた目は黒く、濡れていた。女は目をつぶった。その目から雫がぽとりと落ちる。
「本当にきれい……?」
「何度でも言うよ。とっても綺麗だ」
零は熱く囁いた。女は顔をおおい、すすり泣いた。零は肩を抱いて、優しくさすった。
「嘘でも、うれしい……」
すすり泣いていた女の姿がぼんやりとした燐光に包まれていく。徐々に姿が薄くなり、かすかな光のきらめきを残してかき消えていく。
「おやすみなさい、ゆっくりと」
空になった手のひらを見つめて、零はつぶやいた。