「えー、マジでー。都市伝説とか超コワイじゃん」
「でしょー。まじうちらの守り神」
「マジ? ヤバくなーい?」
「ねー、ヤバいよね、やっぱ。幽霊口説くとかどんだけーって」
「……それ妖怪」
奥に座っていた地味な女が言った。どう見ても、派手な友人に無理矢理つれてこられたという風だ。
「都市伝説だけど、今のは全部妖怪。幽霊じゃない」
暗い口調で言った彼女に一瞬場が静まるが、派手な女があわててフォローする。
「やだー、もうなんかこの子、やたら真面目でね。はっきりさせないとダメなの。気にしないでね」
「気になんかしないよ。君のお友達だし。超かわいいし」
ホストの常套句を言うと女は少し不機嫌な顔をして、地味な女は頬を赤らめた。男に対して免疫がないのだな、というのがわかった。歳は二十代半ばくらいだろうが、多分、処女だ。
「そのホストって、どれくらい稼いでたの?」
「まあ、ナンバーワンだし、一年で三億とか? だいぶ貢いでもらってたみたいだから、もっとかも。プレゼントも豪華だったらしいし。マンションとか外車とか買ってもらってたみたい」
「すごーい! あってみたーい」
「伝説だよ、伝説。実際いたかどうかもわからないし……」
「でもカリスマだよね。超イケメンだよ、きっと! いいなあー」
財布と相談しながらスコッチを頼む彼女は、はぁとため息をついた。
「あたしら心削って働いても、ストレスたまるばっかりだしー。ぜんぜん良くならないよー。お給料も上がらないし、貯金もたまらないし、恋人もできないし、このままでいいのかなー」
「大丈夫だよ。いざって時は、俺が力になるし」
「ほんとー? いやーん、嘘でも嬉しい!」
嘘だけどね。心の中で舌を出しながら、ホストはごくごく小さくつぶやいた。
「そのホスト、今でもいるのかな」
暗い女がぼそりとつぶやいた。すかざず新人ホストが合いの手を入れる。
「えー、流石にもういないっしょー。ナンバーワン変わっちゃってるし」
「じゃあ、もう妖怪が野放しだね」
「え……」
「……」
「やだ、こわい事言わないでよ」
派手な女が固まり、場がしんと静まり返る。
「いや、実はまだまだ現役じゃないかなー」
フォローに入る新人ホストは必死だ。
歌舞伎町の夜は更けていく。しかし新宿歌舞伎町は眠らない。
カツカツカツ。今夜も足音が響く。歌舞伎町のさまよえる女たちを探して、零が歩いている。