術の完成を見とどけるために、私は選ばれたらしいのでした。たしかに定子さまと私は政敵同士ではありましたが、帝を想う気持ちはどちらも同じものであったと思います。そんな大役に抜擢されたことを知り、私は目頭に熱を感じてしまいました。
私が感慨に浸っているあいだ、晴明は姫さまたちの頭をぱっくりと鉈で割ったのです。柘榴のように鮮やかな脳みそが二つ、私の目に飛び込んできました。晴明はその脳みそに口をつけ、齧りついたのでございます。ざりざりと晴明は姫君たちの脳を食らっていきました。
脳を食らうと今度は四つの眼球をべろりと舐め上げ、両の手の指を使って、晴明は眼窩から眼球を取り出していきます。眼球がえぐり取られた眼窩からは、どす黒い血が滴りました。晴明はそれを飲み干し、桃の皮でも剥くかのように、眼窩に指を突っ込んで姫さまたちの皮膚を剥がしにかかりました。
また、狐たちがどこからもとなくやって参りました。白い肌を失い、鮮やかな桜色の肉を纏った姫さまたちの頭部を狐の舌が舐め回します。狐の鋭い歯が、姫さまたちの頬肉を、色鮮やかな唇を、突き出た顎の肉を引きちぎりバラバラにしていきます。狐の舌が、引きちぎられた紅色の肉を狐の口腔へと運んでいきます。
私は、恐ろしい光景に震えることしかできませんでした。群がっていた狐が消え失せると、後に残ったのは口と口を突合せた姫さまたちの白い頭蓋骨だけでした。晴明は満足げに赤い紐で括られた頭蓋骨を手に取ったのです。
晴明は瓶に入った泥の上に、粉末にした姫さまたちの骨を振りまきました。骨の粉末ごと泥を捏ね、美しい女体の造形を作り上げ、その上に晴明は姫さまたちの頭蓋骨を載せたのです。二つの頭蓋骨に愛しげに晴明は唇を落としました。そして、その頭蓋骨を泥で覆い、美しい顔を泥で作り上げていったのです。
晴明は、泥で二人の女が絡み合う美しい倚子を形作りました。それを釜で焼き、姫さまたちの血が混じった釉薬を何十にも重ね、今、帝の目の前にございます美しい女人の倚子が誕生したのです。
なんと、おぞましい倚子でしょう。なんと、おぞましい出来事を私は体験したのでしょう。ですが、それは全て帝のためなのでございます。晴明が言った秘術というのは、全くもってこの双子倚子のことなのでございます。
帝は倚子を集めるのがお好きでしたよね。だったら、この倚子もお収めください。貴方の血を受け継いだ、二人の可憐なる姫さまたちの魂が宿った倚子を。
その倚子に座り続けることで、帝のご威光は千年万年の時を得ても忘れられることはないでしょう。それほどまでに、この秘術は強力であり、罪深きものなのでございます。