狐たちは、白い肌を食い破り、赤い内蔵を野原に放ち、姫君たちの体を貪っていきました。
後に残ったのは、美しい衣の残骸と、月光に光る姫君たちの骨でした。
「ありがとう、兄さんたち、ありがとう……」
口元を赤く染めた狐たちは、草薮の中へと去っていきます。そんな狐どもに晴明は涙を流しながら感謝の言葉を送っていました。
何と、不気味なことでしょう。晴明の母親は狐という噂もあるほどです。加えてあの法力。やはり、あやつは人ではないのかもしれません。
姫君たちを手にかけた時点で、この狂った陰陽師を私は処罰するべきだったのです。そうすれば……。
申し訳ございません。話がそれてしまいましたね。それほどまでに、私にとってこの出来事は、忘れたくても忘れられぬ事なのでございます。
しかし、それも全て帝のためを思っての行為。そのことをお分かりいただけますよう、ご了承お願いいたします。
血に染まった姫君たちの骨を、晴明は丁寧に拾っては、小さな壺へと入れていきました。何せ狐たちに噛み砕かれた骨です。小さく細切れになったそれを、晴明は取りこぼさぬよう熱心に探しておりました。
「では、姫君たちの顛末を見ていただきましょうか、道長さま」
小さな壺に骨を集め終えた晴明は、好々爺めいた笑みを私に浮かべてみせたのです。
荒屋の隣には、粗末な竈がありました。その竈が轟々と音をたてておりました。竈の前には、赤い糸で唇と唇を縫い合わされた姫さまたちの頭がございます。ちょうど、接吻するような形で二人は向き合い、お互いを見つめ合っているのでございます。姫たちの眼は濁っておりました。けれども、笑の形に細められ見るからに幸福そうでした。
晴明は言いました。これから行うのは、唐より海を渡ってやってきた秘術であると。この秘術をかけられた者は世の栄華を極め、極楽浄土へ生まれ変わることさえできるのだと。
ただし秘術を行うには、術を受ける者の身内が必要なのだそうです。
そのために、定子さまは帝との間にできた双子の姫君をお隠しになり、秘術を行なう道具とすべく、育ててきたというのです。そして、秘術の成功には、術を受ける者が最も頼りにしている人間が、術の完成を見届ける必要があるというのです。