「それで、お父さんの形見と引き換えにこのタケノコってわけ」
ジャックの母親はタケノコを窓から捨てた。
次の朝、ジャックが目を覚ましてみると、母親の捨てたタケノコが大きな竹になっていた。あまりに大きすぎて、自らの重みでしなっていた。
「あぁ、夢だろ、これ」ジャックはいった。「きのうのことも、なにもかも、今の暮らしぶりも、この世のことはぜんぶ夢だ」
竹は朝方にまだ残った月までつづいているように見えた。
「月か」
ジャックは竹を登りはじめた。
やがて直に、雲を越えて、竹の先端にきた。竹の先端には広大な砂地がつづいていた。色のない世界だったけど、ジャック自身も色を失っていたから、そのことに気づかなかった。砂地のなかに寺のような、城のような、なんともいいがたい大きな建物があったから、ジャックはそこに入った。門をくぐると、女の声がした。
「だれ? どうやってきたの?」
「僕は、タケオ」
「あら、似てるわね。私はタケコ」
そのとき、足音が聞こえてきた。
「仕方がないわ。こっちにいらっしゃい」
タケコはジャックを連れて調理場のようなところに隠れた。
「でもうれしい」タケコが小さな声でいった。「だれかとお喋りできるなんて」
「いま歩いてきてる人とは話せないの?」
「うーん、話せることは話せるけど、みんな心がないから。ほんとはね、私もそうなるはずだったの。でも、おじいさんが投げた石で服が少し、ほつれたのよね。だから、ここに帰ってきたときには私だけちがってたの。でも、みんなには黙ってる。まったく、天の羽衣がこんなに弱い生地だったなんて知らなかった」
「えと、あの、なに? なにをいってるの?」
「あぁ、ごめん。話してもわからないわよね」
そこへ、月の人がやってきた。月の人は人間を片手にぶらさげている。