ジャックはまた不安に襲われて、目の前がくらくらしだしたが、金貨を数え終わった月の人がねむったように動かなくなったのを見ると、飛び出した。金貨の袋をひとつかついで調理場を出た。門を抜けて、竹に足をかけようかというとき、うしろからタケコの声がした。
「待って! 私も連れてって!」
「それを決めるのは僕じゃない」
月の国を出たジャックは色を取り戻していった。少し遅れて、タケコが降りてくるのが見えた。
「お母さん! 見てよこれ、もう僕たち働かなくていいんだよ!」ジャックは竹を降りるとすぐに叫んだ。
「なによ、朝っぱらから」外に出てきたジャックの母親が目をこすりながらいった。「あら、その子だれ?」
「あ、タケコっていいます」
「タケオの母です」
ふたりはぺこぺことお辞儀を交わした。
「え、じゃあなに? 朝帰り?」
「ちがうよ! それよりお母さん、これ見てよ」
ジャックは庭に金貨の袋をぶちまけた。
「なによこれ」
金貨は砂に変わっていた。
「そんな」ジャックは地面にくずおれた。うしろを振り返ったけど、竹はなかった。「そんな、どうして、そうだ、あのじいさん、オッキー、オッキーだ、オッキーを見つけて、またタケノコをもらわなきゃ」
「そうか、あなたの家にはお金がないのね」タケコがいった。
「それが、どうかしましたか?」ジャックの母親がいった。
「月の人に頼んでみるわ。私がまたこの国で生活ができるように。そしたらまた、お金をくれる。もしくれなくても、私はこんなに美しいから、男たちが貢いでくれる。そのお金を、あなたたちにあげましょう。恵まれない、かわいそうな、不幸なあなたたちに。家だって、もっとでっかく。この庭も壊して、たくさん使用人を雇って。私がなにもかも、恵んであげる。それで、そうよね、そうだわ、あなたたちに与えるだけ与えて、私はあなたたちみたいな貧乏生活を送ってみる。醜くなるのはさすがに無理かもしれないけど」
「ほんとに?」ジャックはうれしそうな顔をしたけど、ジャックの母親がいった。
「バカにすんな」
朝方の月が三人を笑っていた。風が吹いて、砂が流れはじめた。