小説

『BAR竜宮城からの贈り物』野月美海(『浦島太郎』)

「なるほどね。君くらいの年だとそういうものかもしれないな。でも営業はきついよー。何百件って電話をかけて、ようやく1~2件アポとれるかってところだ。それでようやく会ってみたら、殆ど話聞いて貰えなかったりさ。さすがに心が折れるよ。それでも続けられるの?」
「逃げません。全力で働き、御社に貢献いたします」
 いかにも青さの滲む翔太の言葉に、しかし面接官は「ほう」と満足気に笑った。
「頼もしいね。では、面接はこれで終わりです。質問はさっきしてもらったので大丈夫だよね?」
「はい」
「じゃ、採用の場合のみ電話連絡しますから」

 
 ピーンポーン
 場違いに間延びした間抜けな音も、緊張を和らげてはくれない。永遠にも思える5秒の沈黙の後、チェーンのかかったドアの隙間から由香の顔が覗いた。
「はーい」
 翔太の顔を見た由香は「あっ」と言ったまま固まった。
「あの、突然すみません。信じられないかもしれないけど、少しだけ話を聞いてください」
「……あなたが私の恋人とかってやつですか?」
「えっ」
「あっ、その……ヒカルちゃんからいろいろ事情を聴きまして」
「あ、ああ。なるほど。って、え!信じるんですか?」
「えーと、ごめんなさい。まだちょっと良くわからなくて……」
 気まずい二人に割って入るようにして、小さな影が現れる。
「ほらほら、ニーさん!話してたって仕方ないよ。箱、開けて」
「え?あ、そうか。これな。開けるぞ」
 翔太が緊張で汗まみれになった手を蓋にかけると、今度はするりと開いた。本当に開けて大丈夫なのだろうか?不安がよぎった時にはすでに箱からもくもくと煙が上っていた。

 
ぐにゃり、と視界が揺れる。おいおい、本当に大丈夫なのか…。翔太は意識が遠のくのを感じた。

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