「もしかして、です。あなたもう由香さんに愛想尽かされちゃったんじゃないですか?思い当たること、あるんじゃないですか?」
沈黙。
「ま、せいぜい頑張ってくださいね」
ヒカルは再び歌うように言うと、部屋の中へと消えていった。
「あの、もういいですか」
暫くして、困惑を顔に張り付けた由香がおずおずと聞く。
「あ、う……はい」
薄い扉の閉まる音が、いやに重く響いた。
翔太は真昼の公園でベンチに腰掛け、ぼんやりと空を見上げた。青い。どこまでも健康な空。恋人に忘れ去られたフリーター男のなんと不似合いなことだろう。
無理を言って友人の家を転々とするうちに、あの忌々しい日から一週間が経った。フリーターになってからというものすっかり友人も減っていて、もう頼れそうな人はいない。このまま住むところもなく東京にいるくらいなら、いっそ田舎に帰ろうか。
……それで?このまま由香に忘れられていいのか?
「んなわけないよなぁ」
「ピィーンポォーン」
突然、間抜けな音――否、間抜けな声――が響く。
「宅配便でーっす。……あ、ここ公園だから、宅配じゃないか」
ヒカルは小さな包みをベンチに置くと、にやっと笑ってあっという間に走り去っていった。
「なんだ、こりゃ」
持ちあげてみるとやたらと軽いその荷物には、メッセージカードがついている。
〈BAR竜宮城より、愛をこめて。開けてください。絶対に。〉
包みを開けると、中にはテカテカと光る黒い箱が入っている。竜宮城から箱って、まさか玉手箱……なんてな。でも実際に時間が進んだりしたし、何がおこるか分からないよなぁ。