じっくりと観察した末、翔太が親玉と思しき少年の肩を掴み低い声で一喝すると、少年たちは「やべっ」と言い残して蜘蛛の子を散らすように逃げていった。「警察」の一言にすっかりビビったらしい。どうやら計算は間違っていなかったようだ。
一方、助け出した少年はというと、翔太をちらりと一瞥するなりスタスタと歩きだす。
「おいおい。一言お礼くらいは言った方がいいんじゃないか」
「チッ」
おっと、聞き間違えだろうか。
「あーあ。平日の昼間から公園をふらふらと散歩しているような人とは、あまり関わりあいになりたくないのです。あ、ちなみに僕はたまたま短縮授業だっただけなので、一緒にしないでくださいね」
なるほど、と翔太は頷く。理由もなくかつあげされていたわけじゃなさそうだな。
「おい、クソガキ。世の中にはな、平日が休みの人だって沢山いるんだ。謝れ」
「知っていますよ。でも、なんでしょう。あなたからは隠しようのない退廃の香りがするのです。例えば、大卒ニートのような」
うっ。正確にはニートではないが、大差がない気がして、訂正することは憚られた。フリーターをしながら追っている夢があるわけでもない。フルタイムで働くことができない事情があるわけでもない。甘えと惰性とでフリーターを続けていることを、目の前の子どもに見抜かれた気がした。
「あと、僕はクソガキではなくヒ・カ・ルです!……でもまあ、ありがとうございました」
「ありがとうございました」に「でもまぁ、」が付属し得るとはなかなか衝撃的な事実だったが、居心地悪そうに俯く少年を見て、照れ隠しなのだろうと思うことする。
「あ、そうだ」
それからヒカルは思い出したように言うと、メッセンジャーバッグの底をゴソゴソとあさる。
「お礼にこれを差し上げます。はい、お姉さんにも」
ヒカルから手渡された紙切れを見ると<BAR竜宮城>と書かれている。
「僕の兄が経営するバーのチケットです。宣伝のために持たされているのです。なんと初回飲み放題無料のチケットなので、良かったら寄ってみてください。ちなみに兄はけっこうイケメンです」