「はーい、確かに受け取りました。しっかし、由香さんも女優ですね。僕から提案しておいて難ですけど、正直こんなに上手くいくとは思いませんでした」
ヒカルは微笑とも苦笑ともつかない、複雑な表情をしてみせる。
「そう?私は上手くいくと思ったよ。そりゃ、翔ちゃんが頑張ってくれなかったらどうしようってちょっとは不安だったけどさ。こんな風に単純なところが好きなの。それにすぐにこうやって騙されるでしょ?放っておけないのよ」
微笑む由香の薬指で相場より安価な指輪が誇らしげに光っている。
「わお、ご馳走様です!きっとあの人、これからもあなたの掌の上で転がされる人生なんでしょうねぇ」
「ふふ、いいの。7年も一緒にいれば分かるの。翔ちゃんには私しかいないんだから。これが幸せなのよ」
「はは、敵いませんね。あ、僕はそろそろ街へ出かけますよ。中学生に喧嘩を売るのは嫌なんですけどねぇ……。また親切な誰かを見つけて、幸せのお手伝いをしなければなりませんから」
「やっぱり、わざとだったんじゃない。どうしてこんなことをしているの?」
「ざっくり言うと、竜宮城の信用回復のためですかね」
「信用回復?」
「カメを助けてあげたのに浦島太郎を不幸にしたのなんのって叩かれちゃって。長居しちゃダメですよって、ちゃーんと説明したんだけどなぁ。まったく世知辛い世の中ですよ」
ヒカルの大人のような物言いに、由香は思わず笑みをこぼす。
「大変なのね。でもさ、そんな世の中でも中学生に囲まれた小学生を助けてくれる人はいる。素敵でしょ?」
「……計算しつつですけどね」
ヒカルはふっと笑うと、チケットを握りしめて立ち上がる。
「じゃ!」
駆け出すのと同時に潮風が頭上の葉をサラサラと鳴らして、気怠い月曜をすっかり攫っていった。