おかみさんを先頭に長屋連中がぞろぞろと熊五郎のうちへ。
「ん? なんか聞こえないかい? 熊の声だ」
「あゝやわらけェ。こりゃ極上だ……」と小さな声がする。
「とうとう熊、頭おかしくなったんじゃないか」
「おかしくなったね、こりゃ」
長屋連中は戸を少し開け、覗きこむ。
熊五郎は自分のおっぱいをもみながら、畳の上をごろごろ、ごろごろ。
「あいつなにやってんだ」
「おいおい、熊にでっけえおっぱいが付いてるぞ」
「うわ、ほんとだ」
「自分のおっぱいもんでやがる」
「どれどれ、おれにも見せろ。熊におっぱいなんてあるもんか」
と長屋連中騒いでいるうち、戸が外れ、ドーンと戸口で人の山。
「なんだ。おめえら」
「なんだじゃない。熊さんこそ、どうしたそのおっぱい」
熊五郎、顔を真っ赤にしながら、しおらしくおっぱいを隠す。
「いやん、なによ……。う、うるせえ、出てけえ、助平ぇ……」と熊五郎、男と女が混じった声色で言う。
「そ、そのおっぱいどうしたんだ? どうやってこしらえた?」
「もしや……盗んできた?……」
「あゝ、うちの長屋から盗人が出るなんて……」とおかみさん、目元を着物の袖で拭う。
「こんなもん盗めるもんか。目が覚めたら付いてたんだ。観音様が付けてくれたんだ」と熊五郎、いつものだみ声で言う。
「ほんとか?」
「ほんとだ」
「それにしてもでっけェ、いいおっぱいだなァ」
「そうだな」
「ちょっとばかしおれらにも触らせてくんないかい?」
「ばか言え。これはおれのだ」