小説

『おっぱい谷』エルディ(落語『頭山』)

とはいえ熊五郎は持ち合わせがないっていうんで、さい銭箱に手をつっこみ銭を一握り。
「痛てて」と言いながら銭を取り出すと、それをまたさい銭箱に投げ込み、手を合わせる。
「ええ、観音様。おっぱいをもませてくれ。娘の若々しくて張りがあるのにやわらかいの。頼む」いつもまにやら合わせた両手がいやらしい動きになってる。

熊五郎は夢の中でおっぱいをもんでいる。
「あゝやわらけェ」と寝言。「ん? 今日のはいつもにましてたまんねえなァ。観音様のおかげだ。ありがとう観音様」
しかし、あまりにもほんものっぽい手触りだったので、目を覚ますと、
「うわー、なんだこりゃ」
なんと熊五郎の胸に大きなおっぱいの山が二つ。目をこすり、触ってみる。取ってつけたような大きさだが、取れそうもない。どうやら自分のものだ。
「お、おっぱいができちまった。あゝひと様のさい銭使ったばちがあたったんだ。どうしよう、どうしよう」と慌てる熊五郎。
「すまん観音様。取ってくれえ。いくらなんでもこりゃないや。あやまってこなきゃ」
しかしどうして、見れば見るほど、すばらしいおっぱいだ。おそるおそるもんでみると、これがまたいい手触り。若々しくて張りがあるのにやわらかくて、ふかーい谷間がある。
「んん、自分でもむのはなんか変な感じだが、せっかくつけてくれたんだから、もうちょっと楽しんでからあやまりにいくか」

長屋では熊五郎が急に静かになったてえんで、ざわざわ。
「熊さん、今日はいやに静かじゃないか」
「はー、熊もきのうのでわかってくれたんだね。よかったよ」とおかみさん。
「なんかしたのかい? おかみさん。大丈夫だろうね。死んでやしないだろうね。様子を尋ねたほうがいいんじゃないか」
と、長屋連中が口々に話す。
そう言われるとおかみさん、
「おっぱいもめないからって首くくってないだろうね」と心配になってくる。「まさかねえ。でもあいつはばかだから。まあちょっと様子を見にいってみるか」

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