「早くしてくれよおー」と熊五郎はあぐらをかき、まえのめりでそわそわ。
ところが、おかみさんなかなか戻ってこない。
熊五郎、さすがにうつらうつら。
とそこへやっと……
トントン、トントン。
熊五郎はハッと目を覚まし、「遅えじゃないか、おかみさん」
「ちっと説得するのに時間かかってね」
「あゝいいから、早くあがんなよ」と熊五郎はそわそわ。
「その前に、目をつむっておくれ」
「なんでだい?」
「もませてやってもいいけど、顔は見られたくないって言うんだ」
「ん?」と熊五郎はしばらく思案。「んー、まいっか、もめるんなら。あゝわかった。目をつむるよ」
「ほんとにつむったかい?」
「あゝ、おれは嘘つかねえ。正直者だって言ってんだろ。早くしろやい」と言って両手を前に差し出す。
すーっと戸があいて、二人が入ってくる気配。熊五郎はたまらず、手をいやらしく動かす。
「ほら熊。もんでいいよ。やさしくな」
「おお」と熊五郎は緊張しながら手を動かす。「ああ、やわらけェ。こりゃいい」
「だろ? 若々しくて張りがあるだろ?」
「ああ。おかみさんありがとう。目あけちゃだめかい? この娘さんにも顔を拝んで礼を言いてェ」
「だめだめ。約束だからね。恥ずかしい気持ちもさっしてやって」
「まあそうだな。ありがとうな、娘さん。せめて声ぐらい聞かせてくれよ」
「だめだめ」
「声もだめなのかい?」
「ああ。ほらもう十分だろ。手を離しな」
「ええー、もうちょっといいだろ」
「だめだ」と言っておかみさん、熊五郎の手をつかみ引っ張る。