小説

『おっぱい谷』エルディ(落語『頭山』)

「おれは正直者なんだ」
「まったく屁理屈言って。じゃあ女郎屋でもいってくりゃいいじゃないか」
「金がねえんだよ。あ、おかみさん。金くんねえか」
「やだね。そんなことのためにくれてやるもんかあ。貸しもしねえよ」
「ちッ、けちだなァ」
「まったくしょうがないねェ。ひと肌脱いでやるか」
「お、くれんのかい?」と言って熊五郎は起き上がる。
「金はやんねえよ。でもしょうがないからあたしのもませてやるよ」と言って着物を脱ごうとする。
「おいおいやめてくれ。誰がばあさんのしおれたもんもみてえって言った」と言ってまた寝転ぶ。
「失礼するね。おっぱいはおっぱいだ。それにあたしだって昔は…」
「べっぴんだったって言うんだろ。その話百ぺん以上聞いた」
「じゃあどんなおっぱいがいいって言うんだい?」
「そうだなあ」と言って目をつむり、両手を宙にひろげ、おっぱいをもむ仕草をする。「大きさはこのくらいでェ、若々しくて張りがあるのにやわらかくて、ふかーい谷間があるのがいいね。そうそうフジワラノリカみたいなおっぱいがいい」
「誰だい? そりゃ。お公家さんかい?」
「知らねえ。夢に出てきたべっぴんさんだ」
「まったくしょうがないねェ。夢とうつつの区別できなくなってるよ」
「あゝ、どっかにおっぱい落ちてねえかなー」
「ばか。落ちてるもんか。まったくしょうがないねェ、連れてきてやるよ」
「お、そうこうなくっちゃ。で、どっから持ってくんだい?」
「持ってくるって言いかたやめなよ。若々しくて張りがあるのにやわらかいおっぱいの持ち主を思い出したんだ。連れてこれたら連れてきてやる」
「首に縄かけてでも連れてきてくれ」
「そんかわり、連れてきたら、もう黙っておくれよ」
「もませてくれたらな」
「よし、約束だよ」と言っておかみさんは熊五郎のうちを出ていく。

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