小説

『姫とHIME』NOBUOTTO(『かぐや姫』)

「地球人はSG10をかぐや姫と命名したようですね。ジェシーさん、『姫』とは、地球人が高貴な女性につける名称です。私達もこのアンドロイドをHIMEと呼びましょう。その方が私達も愛着が湧くかと思います」
「博士、愛着というのは原始感情で…」
 博士はジェシーの話を遮るように、HIMEの養育資金転送の作業に取り掛かるようにと言った。ジェシーは何か言いたそうであったが、指示された作業を開始した。                

*地球*                              
 かぐや姫は3ヶ月で成長しました。肌は透き通るほど白く髪は長く漆黒で、その髪は月夜の晩になると月より輝くと村では評判でした。しかし、翁と媼はかぐや姫が心配でたまりませんでした。それは、かぐや姫に喜怒哀楽の感情がなかったからです。赤ん坊の時から今まで、大きな黒い瞳で周りをじいっと見ているだけです。感情が全くない美しいかぐや姫は魔物の化身だという噂が村に広がりました。竹林に行く度に袋一杯の金銀を手にいれ今ではすっかり裕福になっていた翁は、かぐや姫の将来のため村を出て都で暮らすことに決めました。

*惑星*                          
 「廃止間近」となっているプロジェクトに若い優秀な研究者が配属された。その理由は博士にもわからなかった。朝の会議で研究プロトコルに対してジェシーが質問をする。
「実験の最後でエッグによる原始感情共有を行いますが、必要なのでしょうか。研究結果として定量評価ができない項目は意味がありません。データ分析だけで十分ではないでしょうか」
 博士は、天井を眺めてから話し始めた。
「文明の進歩を妨げる要因となる原始感情を排除することでこの国は発展しました。これは文献に記載されています。しかし、そもそもの原始感情自体についてはどこにも記載されていません。原始感情の定式化と評価が難しいからです。しかし、原始感情とは何か、対象について知ることはデータ分析と同様に重要と考えています」
 ジェシーは、明らかに納得していないようであった。
「ところで、ジェシーさん。あなた達の世代は、生まれて直ぐに親元から離れて共同生活を行い、16歳になると結婚相手も国から指定されます。研究上での質問ですが、本政策について、あなたはどうお考えですか」
 博士の質問意図は不明であるが、という前置きをしてジェシーは答えた。

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