下座の馮驩に対して、上座にはずらりと食客が居並び、贅をこらした料理をつつきながら、給仕の少女が注いでまわる杯を傾けている。
幾度目かの乾杯のあと『孟嘗君』が訊ねた。
「馮驩どのは学問をなさいますか」
食客たちは何気ない顔で舌鼓をうちながら、耳だけは注意深くそばだてている。
弱肉強食の時代、政治思想や戦略論の類いが星の数ほど生まれ、諸氏百家と呼ばれる学者たちがオリジナルな必勝法を携えて、諸国に自分を売り込んだ。
この場に居並ぶのは三千人からいる食客のうち、一家言が認められたエリートというわけだが、貧相に見えるこの男が、万が一、市井に埋もれた兵法の権威だったりした場合、誰かの待遇が落ちるかもしれない。
だが馮驩は平然として、
「いや。文字が読めませんでナ」
そう答えながら、上座の食客と同じか、それ以上に飲み食いしている。
「ほう。では武芸をたしなまれますか」
「いや。剣矛を持っておりませんでナ」
面々は内心ほっと胸をなでおろした。なんだ。タダ飯にありつきたいだけの能なしか。これなら我々のポジションを脅かすようなこともあるまい。
「そうですか。それはそれは」
ふくよかな『孟嘗君』が笑顔の裏で、目前の男をどのように値踏みしているものか。しきたり通りに仁義を切ったからには、すぐに追い出すようなことはできぬはずだが―――。
身分証のない時代、ことに有象無象が入り乱れる乱世では、仁義が一種の身元保証になった。ただしく切るには然るべき筋に認められ、作法を伝授されなければならない。カタリやゴマカシは論外として、ドモリやツッカエもへたをすると半殺し程度にはなりかねなかった。
渡世も命がけなのだ。そのかわり作法通りに口上を述べた者ならば、誰であれひとかどの客人とされた。
といっても、
「では、どのような
やはり乱世のリクルート、そこはしっかりチェックが入る。一芸もない者に、いつまでもタダ飯を食わせるわけにはいかないのだ。