海にドライブに行ったその後も、ミチコと僧侶はデートを頻繁に重ねていた。僧侶はいつも僧侶の格好で来た。どこへでも、袈裟を羽織った着物姿で現れた。表参道、遊園地、東京タワーにイタリアンレストラン、等々。どこであっても僧侶は僧侶だった。しかしミチコはそんなことは気にならない。どんなに街中で人々の視線集めようとも、浅草寺でデートの最中にも関わらず何度か見知らぬ老婆に隣で僧侶が拝まれようとも、気にならなかった。ミチコは何より夢中だった。僧侶に。ではない。
いつからかミチコは「ねえ住職さん。私、あれが欲しいの」が口癖になる。由緒正しいお寺の当主であった僧侶には、ミチコが思った通り、金があった。かなりの金があった。はじめ僧侶との艶かしいやり取りにときめき、僅かながら恋心も抱いていたミチコであったが、幾度となく高価なプレゼントを与えてもらっているうちに、僧侶を魅力的に感じるよりも、僧侶がくれるプレゼント自体に魅力を感じるようになっていた。
「ねえ住職さん。私、あれが欲しいの」
「ええ、ミチコさんのためなら」
ミチコはヴィトンのバックで出勤。
「ねえ住職さん。私、あれが欲しいの」
「ええ、ミチコさんのためなら」
ミチコはグッチの財布で昼休みのランチ。
「ねえ住職さん。私、あれが欲しいの」
「ええ、ミチコさんのためなら」
ミチコはリビングに備えたホームシアターでワイン片手に映画鑑賞。
「ねえ住職さん。私、あれが欲しいの」
「ええ、ミチコさんのためなら」
ミチコは寝転んだままで、部屋を駆け回る掃除機ルンバ。
「ねえ住職さん。私、あれが欲しいの」
「ええ、ミチコさんのためなら」
ミチコは真珠のネックレスで後輩いびり。
「ねえ住職さん。私、あれが欲しいの」
「ええ、ミチコさんのためなら」
ミチコは会社を終えると夜景の一望できる高層マンションへ帰宅。