小説

『オリザに灯る火』清水その字(宮沢賢治『グスコーブドリの伝記』)

 局長には私があれこれと質問したが、彼らには先輩がゆったりとした口調で取材にあたった。全部で十人くらいに、歳と生まれた場所、家族のこと、仕事のことなどを訊き、最後には決まってこう尋ねた。
「君がグスコーブドリだったら、二十年前にどうしていた?」
 ほとんどの技師が、考えた末に「分からない」と答えた。二人が「同じことをしたと思う」と答えたが、彼らも自分にそれができるのか確信は持てないと言っていた。先輩は取材に応じてくれた相手に丁寧にお礼を言った。
 火山局の仕事なども取材し、ブドリがいた頃とどう変わったかなども教えてもらった。今は炭酸ガスとは違う方法で冷害を防ぐことを研究しているらしい。基礎的な理論は二十年前にできていたそうだが、飢饉が起きるまでにはとても間に合わないと明らかだったため、最後の手段が選ばれたのだ。その研究が完成すれば、グスコーブドリの願いは全て叶うことになるだろう。そのときにはまた取材させてもらいたいと頼み、クーボー大博士にくれぐれもよろしくと伝え、私たちは今日の取材を終えた。
「溺れている仲間を助けるために河へ入って、そのまま帰ってこなかった友達がいてね」
 新聞社への帰り道に、先を歩く先輩がふと語り始めた。悲しい思い出だが、口調はいつも通り、凪のように穏やかだ。前を向いたままなので顔は見えないが、そちらもきっといつも通りなのだろう。
「彼はブドリみたいに大勢の命を救ったわけじゃないし、同じことを考えていたわけでもないと思う」
 ふいに風が吹き、先輩は吹き飛びそうになった帽子を手で抑えた。その風が止むと、またゆったりと歩いていく。
「でも、求めていたものは同じだったのかもしれない」
 先輩はそれから何も言わず、社へ帰った。そして私へ汽車の切符を渡すと、今日は早めに寝るようにと告げた。



 先輩は汽車が好きらしく、鉄道で取材に出かけるときは少し嬉しそうだ。イーハトーブに潮汐発電所がいくつもできた今、全ての鉄道が電気で動くようになるのは時間の問題だろう。だがまだ電線の通っていない地方へは蒸気機関車が使われる。我々二人はイーハトーブ市から長い間汽車に揺られ、着いた駅で辻馬車を拾って取材先へ向かった。
 着いた先は牧場で、緑の牧草地が広がっていた。美しい光景だが、牛やら肥やしやらの臭いが漂ってくるのは仕方がない。私は農民の子だからある程度なれているが、しばらく都会にいるとやはり異臭に感じてしまう。カブの畑もあり、青々とした葉の付け根に丸々とした根が見え、収穫は近いと思われた。トウモロコシの畑もあったが、一部は収穫が終わって刈り倒してある。

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