小説

『次は、』氏氏(『百物語』)

 「あっはっは!こりゃあいいわい。今日で新しい村長と、その嫁さんが決まったわい!」
 与作は腕を振り、ちょっとまってと慌てた。男の子が与作の横腹を蹴った。
 「ばーか!もうきらいだもんね」
 男の子の父親は笑っていた。息子の右手を掴み、自分の後ろに引っ込めた。
 「ささっ、馬鹿息子は放っておいて、次々!」
 数分間、一同は賑やかだったが、再び静かになっていった。与作が明かりに手のひらだけを照らした。
 「次は誰だい?」
ここで、さきが中心に歩いた。
 「わたしするー」
 与作は聞いた。 
「なにを」
さきは母親の膝の上にちょこんと座った。
 「怖いやつ」
 *
 『これね、わたしがね。生まれる前のやつなの。みたことない、おっきな犬がいてね。その上に変な服を着た人がいて、乗ってるの。犬に。それたくさん歩いてるの。走ってるのかな。よく分からないけど、その人たち、先がピンピンしてる、長い棒持って、トモダチとかおっかあとか、みんな傷つけていくの。私も棒に当たって、すごく痛かった。でもね、血は出ないの。』

 *

 辺りは相変わらず静かだった。誰も話そうとはせず、中心の明かりがゆらゆらと揺れていた。さきは、ぱたぱたと入り口に走って行き、本堂の扉を開けた。さきの肌を、秋が近い夏の夜の心地よい風が触れていく。その風は、燃え尽きる寸前の明かりにも触れ、本堂内に田んぼの匂いが満ちた。それに加わるように、燃えた葉っぱの焦げた匂いがした。
 真っ黒になった本堂には、誰もいなかった。

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