小説

『次は、』氏氏(『百物語』)

 村人たちは笑った。が、すぐに静まった。みんなの顔は見えないが、与作は自分に視線が集まっているのを感じ取った。与作は姿勢を変えた。
 「おれでいいのかい」
 村人たちは次々と同じことを言った。
 「いいんだ、いいんだ。与作なら任せて大丈夫だろう」
 満場一致で、与作が村長に決まったようだった。拍手がおこり、与作は照れた。
 「こんなときに大事な話を・・・村長はほんとに自由だなぁ。あ、元村長。」
 「ここまで長生きするとな、自由にもなるんだな」
 「村長は昔からでしょう」
 どっと笑いが起こった。怖い話なのか、談笑しているのか、だんだん分からなくなってきた。男の子の顔が明かりに浮かび、次はおれだといわんばかりに、どしっと腰を下ろした。
 *
 『おれ、さきが好きなんだ。でもさきはおれと5歳も違う。おっとうには「まだ早い」って言われた。でもいいじゃん。だって可愛いんだもん。おれのお嫁さんになってください。』
 *
「おお~」
 一同は微笑みながら、驚嘆した。男の子の父親が慌てている。
  「おめぇはほんとに、馬鹿だなぁ」
 父親は、息子の襟を掴んで、自分の膝の上へ持ってきた。
 「なんだよ、だっておっとう言ってたもん。男は、ガツガツがいいんだって」
 円が少しだけ崩れた。みんな姿勢を崩したようだ。さきの母親が笑っているらしい。
 「さき、どうするー?」
 さきは首を傾けて、足をぱたぱたした。
 「与作がいいなぁ。わたし」
 どっと一同に笑いが起こった。与作は照れていいものか、なんというか、返す言葉が見つからない。
 「えっと、さき?おらは、28歳でよ」
 「だから?」
 元村長の顔が空中に浮かんだ。

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