小説

『次は、』氏氏(『百物語』)

 さて、お金払おうと思って、店主を呼んだ。んで聞いたんだ。さっき、すみれっていう女に会って、ここ案内されたということを。あの女、どこの人ですかと。そうしたら店主、目ん玉飛び出すんじゃねぇかっていうくらい、驚いたんだ。あぁ、なにか気に障ったかなと思ったんだが、店主がこう言ったんだ。
 「そいつは俺のひとり娘なんだが、ひと月前に川に落ちて死んでしまったんだ」
 おれはびっくりして、なにを思ったんだか、娘さんの容姿を事細かに言ったんだ。そしたら店主泣いてな。確かにそれは、うちのすみれだと・・・。』
 *
 与作が話終わってもなお、村人たちは静かだった。さきが言った。
 「すみれさん、いい人だね」
 「そうだなぁ。あまりに哀れなおらを見て、気の毒に思ったんだろうなぁ」
  少し大きめの声で、次は村長が言った。
 「与作。おめぇは幽霊にまで世話かけてんだなぁ!」
 村人たちはざわついた。それはそれは大きな笑い声だった。与作は姿勢を変えた。
 「うるせぇやい。さ、次は誰だい」
 円の中心に、1つの顔が浮かんだ。
 「わしだ。村長だ」
 *
『ばあさんが死んでから、数十日目の夜だったな。もう互いに長く生きすぎたから、もう悲しくもなんともなかったんだが。夜、1人の家はさすがに堪えてな。やけに家が広く見えたよ。
 さあ、明日の畑に備えて寝ようとしたときだ。天井に、白い靄のようなものが現れたんだ。次はわしの番か・・・と思ったんだな。しかしそうじゃなかった。それが、だんだんと人の顔になってな。とうとうばあさんの顔になった!こりゃあたまげたな。そのばあさん、なんだか怒っててな、なにかじゃべってるんだよ。聞こえの悪い耳を済まして、よく聞いてみると・・・
 「いつまで村長やってんだい!はやく若いもんに代わりな!」
 こいつぁ参った。うちのばあさんは、死んでもなお、わしが心配で成仏してないんだとな。というわけで、村のためにも、ばあさんのためにも、誰か村長を頼まれてはくれんか』
 *
 再び、村長の顔が明かりに浮かんだ。
 「与作、おまえ村長やらんか」

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