「おまえだぁ」
「きゃあ」
与作のこわいはなしに、号泣の子どもたち。与作はこわいはないしが大好きだった。人から聞いたものもあれば、自分でつくったものもある。こわいはなしを考えているとき、与作は楽しくて仕方がなかった。5歳ほどの女の子が、与作にいった。
「あんちゃん、なんでそんなにこわいの?」
「顔?」
「ううん。おはなし。」
「なぁに、さきが弱虫だから、そう思うのさ」
さきと呼ばれた子どもは、ふるふるする頬を膨らました。
「あ、よさくがさきを怒らせた」
「わーるいなぁ、わーるいなぁ」
さきと同年代の男の子たちが、揃って歌い出した。しかしこれは、日常茶飯事なのだ。あとでおもちでもあげれば、たちまち元のさきになり、後日また話を聞きに来るのだ。
「おもちやだ」
「え?」
「飽きたもの」
「まだなにもいってない」
「おもち食べたくない」
さきはそう言いながら、与作に抱きついた。他の子どもたちも、与作に抱きついた。そして一斉にこういった。
「おもちやだ」
これには与作、参ってしまった。こんなことはじめてだからである。そのまま数分がたっただろうか。男の子がいった。
「与作、おれたち以外にも、怖い話したことあるの」
少々意表をつかれたので、裏声が混ざった声で言った。
「なぁい」
「ならさ、ならさ、みんなにやったら」
「みんなって、君らのおっかさんたちにもかい」
また、子どもたちの声が揃った。