そうしてこれまで祖母の事は忘れていた。それが今鮮やかに蘇って来たのは、この歌のおかげである。祖母は良くその歌を口ずさんでいた。
「その歌は何」
「この歌を唄いながら遊ぶと楽しいんだよ」
「どんなの」
「二人じゃあ出来ないんだよ。友達ができたらよんでおいで、教えてあげよう」
しかし友達ができた時、祖母はもういなかった。
あの日、お参りの最中に祖母はこの歌を口ずさんでいた。その歌声は山に沁みるようで、美しく儚い。不意に思い出した今、その歌声がたまらなく聞きたくなった。
涙で視界がぼやけている。怪談男たちはまだ歌っている。ここは何処なのだろうか。遠くに鳥居が見えた。歌は先ほどの歌声とは変わり、少し優しさを帯びているように感じられた。
「鳥居をくぐる時は確か、息を止めるらしいですよ」怪談男が言った。
はっとして横を向くと、にやりと笑っている。
「どうかしました」
「あなたは誰なんですか」
「私ですか。そんなことどうだっていいじゃないですか」
前方の人々が、鳥居に吸い込まれるように消えていく。そのたびに、歌は小さくなるどころか大きく聞こえてきた。
「ほらもう鳥居だ。決して息を吸ってはいけませんよ」
鳥居をくぐる。ふいに風が吹いた。次の瞬間、辺りを田んぼで埋め尽くされた、細いあぜ道に立っていた。周りを見渡してみても誰もいない。横には用水路があり、橋端には雑草が生えている。それを見て食べれるか食べれないかと考えているうち、祖母に強く会いたいと思うようになった。
細道をゆっくり歩きだした。先ほど合唱をされた『とおりゃんせ』の歌詞に出てくる細道もこのような細道なのかもしれない。
通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細道じゃ
天神さまの 細道じゃ
ちっと通して 下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つの お祝いに
お札を納めに まいります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせ