小説

『かみかくし』薮竹小径(『草迷宮』)

神隠しで祖母が消えた日から数日たって「君は気をつけないといけない」と神主さんは言った。「神隠し続けざまに起るのは、隠された人が大好きなひとと一緒にいたいと思って、その思いが大好きなひとを連れてくる。そうしてそこで待ち構えて誘い込むんだ。決して君はその誘いに乗ってはいけない」
 祖母の強い気持ちが、あの男になったのであろう。しかし祖母は最後の最後でその思いを断ち切った。そうして助けてくれたのである。最後に見せたあの寂しそうな顔は脳裏に焼き付いて離れない。本当に祖母は優しい人であった。
 また来るときは、この世で多くのことを思わらせた後にしようと思う。たくさん話すことを作って、ふたりでお話ししよう。祖母は必ずや待っていてくれるはずだ。
 月が見えた。大きくて明るくて、なんと美しい。山を出るとそこは商店街の入り口で、不意に強く珈琲が飲みたいと思った。

1 2 3 4 5 6 7 8 9