「仕方ないんだよ。派遣先の仕事が契約期間満了で終わって、次の派遣先が決まる迄、仕事がないんだから」
「仕事がない時は、金を使わずに、まずは仕事を探せ。それから、働け。金を使うのはその後だ。臨時はあくまで臨時、本業あっての臨時だということを忘れるな」
「叔父さんに喜んでもらおうと思ってやったことなのに」
好夫は悲しそうな顔をしてうつむいた。甥に同情する素振りも見せず、勝は話し続ける。
「俺を喜ばせようとすること、それが三つ目にして最大の間違いだ。24時間365日、仕事のことしか考えていない俺に、メリー・クリスマスと言ってワインを持ってくる、それで俺が喜ぶと思うか?」
「それじゃ、叔父さんはどういう時に喜ぶんだよ?」
「俺はどんな時でも喜ばない。強いて言えば、全てのお役目が終わって、このいまいましい世の中を去る時だろうな」
勝は煙草を灰皿に擦り付けて火を消した。
「ところで好夫、仕事がないなら、うちで働かないか?」
「え?ここで?」
突然の叔父の切り返しに好夫は驚いた。
「失業した中高年じゃあるまいし、いつまでも派遣を渡り歩いている訳にはいかんだろう」
「でも、ぼくに、この仕事出来るかな」
「やる気があればな。その代わり楽ではないぞ」
「楽な仕事なんてないのはわかっているつもりだよ」
「人の死は時を選ばない。寝ている時でも食事をしている時でも、いつでも連絡が取れる様に携帯電話を肌身離さず持っていなければならない。風呂に入っている時もだ」
「圏外の場合はどうする?」
「圏外の場所に行くのは禁止だ。地下鉄、ライブハウス、映画館」
「映画やライブも?」
「このご時世、全てネットで見られるだろう。一昔前はそれも出来なかったんだから、ありがたいことだ」
「そんなに大変な仕事なんだ」
「この仕事を選んだらそうするしかない。皆やっていることだ」
好夫は、仕事は欲しかったが、果たして葬儀屋という仕事が自分に出来るかどうか、自信がなく、返答に窮した。
「好夫、これはチャンスでもあるんだぞ。仕事というものは、自分から求めても手に入るものではない。人から依頼されて初めて得られるものだ。読んで字の通り、人に仕える事と書いて仕事と言うんだ。お前にも色々とやりたいことがあるだろうが、若いうちは何事も経験だ」