「叔父さん、そう言わずに。クリスチャンに関係なく世間はクリスマスなんだから」
「世間って何だ?世間はクリスマスだと言うのなら、俺は世間には含まれていないってことだ」
「確かに叔父さんは世間とは違うけど」
「じゃあお前は世間様って訳か?」
「叔父さん、ぼくは叔父さんと喧嘩しに来たんじゃないんだよ。クリスマスの挨拶に来たんだ」
好夫は、手に持っていたクリスマス風にラッピングされたワインボトルをテーブルの上に置いた。
「これ、イタリアのオーガニック・ワイン。クリスマス・プレゼントだよ」
勝は、ソファに座ったまま、2本目の煙草に火をつけた。
「好夫、お前はここへ来てから既に三つの過ちを犯している」
「叔父さん、ぼくはまだここへ来てから1分しか経っていないよ。どうやって3つも過ちを犯すんだよ」
勝は立ち上がり、ワインのボトルを手に取り好夫に返した。
「好夫、俺の仕事を知っているだろう。俺は葬儀屋だ」
「知っているよ。だから、クリスマスぐらい一息ついて欲しいと思って、買ってきたんだ」
「人はいつ亡くなるかわからない。誰かが亡くなったら俺はすぐに車で駆けつけなければならない。ワイン飲んで、車を運転出来るか?」
「お母さんが、すぐる叔父さんはワインが好きだって言っていたのを思い出したから」
「それは葬儀屋を始める前の話だ。俺は、この30年間、一滴の酒も飲んでいない。お前のお母さんは俺の妹だが、この仕事を始めてからの俺のことは何一つ知らないし、知ろうともしないうちにこの世を去ってしまった」
「ごめん。それじゃ、引退する時にでも飲んでよ」
「俺は死ぬ迄引退しない。だから、これを飲む機会はない。それが一つ目の間違いだ」
好夫は、返されたボトルを再びテーブルに戻した。
「二つ目の間違いは、失業中のお前が身銭を削ってワインを買ったこと。そんな、無駄遣い出来る身分じゃないだろう」
「それは、臨時収入が入ったからだよ」
「ふん、どうせ競馬かパチンコだろう」
「違う。アルバイトだよ。ギャンブルはもうやめた」
「お前、いくつになる?」
「来年25歳になるけど」
「25歳でアルバイトは、堂々と人に言えることではないぞ」