「君の言うことが本当だとすると、その3人目が、俺が今生で会う最後の人間になる訳だな」
「さあ、どうだろう」
「だとすると、往生寺の慈元和尚だろう。葬儀の仕事では毎回お世話になっている上、往生寺は俺の菩提寺でもあるし、何と言ってもこの仕事を始める前からの付き合いだからな」
「惜しいが3人目は彼ではない。彼は今日、あんたに贈るためのクリスマス・ケーキをパティスリーに予約したよ。でも、ここへは明日持ってくるつもりの様だ。今日はお通夜で郊外まで出かけている」
「明日ケーキを持ってここへ来て、お寺への奉納金をせしめようという魂胆だろう」
「全く、あんたに言わせれば和尚まで欲のかたまりだな」
「人一倍欲深いから坊さんになるんだよ」
「まあいい、3人目は誰が来るか言わないでおこう」
「誰が来ても構わない。俺はいつも通り振る舞うさ。ここに来るのが生きた人間だろうが、君みたいに既に死んだ奴だろうが、俺には関係ない」
「それでこそミスターだ。さて、私はそろそろ行かなければならない。今日のあんたの様子を見て安心したよ。それどころか、私まで、あんたが今日死ぬという事実は間違いなのではないかと思えて来た」
「君はもうあの世の人なんだから、そろそろ落ち着け。俺が死ぬの、死なないの、どうでもいいことでわざわざ姿を現して、往生際が悪いったらないぞ」
「あんたの言う通りだな」
丸井さんは何も言い返すことが出来ず、オフィスの出入り口に向かって、外に出る前に振り返り、勝に最後の挨拶をした。
「今日は久々に話が出来て良かった。あんたの助言に従って、私は素直に往生するよ。元気でな、ミスター」
「じゃあな。もう出てくるなよ」
丸井さんが帰るのを見送った後、勝はオフィスのソファに深々と座り、煙草に火をつけた。
「俺が今日脳溢血で死ぬだと?馬鹿馬鹿しい!」
「メリー・クリスマス!すぐる叔父さん」
勝が1本目の煙草を吸い終わらないうちに、オフィスのドアを開けて元気に入って来たのは、勝の甥、好夫だった。
「メリー・クリスマスだと?お前はいつからクリスチャンになったんだ?」
ソファに腰掛けたまま勝は不機嫌そうに答えた。