小説

『光の果てに』あいこさん(『竹取物語』)

「わかるかい。わしは、自分だけがこう生き続けていることを悲しく思っとる。しかしだ…。長く生きてきて、わしにしか見れなかったものがある。かつての同級生たちが見ることのできなかった発明や、発達していく技術を、わしだけが見ることができたんじゃ。わしだけが」
 そういう老婆の眼は、精気を取り戻したかのようにギラつき始めた。
 老婆はふと我に返ったように、ゆっくり瞼を閉じ一呼吸置くと、
「人間とは恐ろしいもんじゃ」
と言い、落ち着いた口調で続けた。
「不思議なもんじゃのう。人間が宇宙へ移り住み、もう270年が経った。人間は持ち前の好奇心や向上心で、宇宙でも地球に住んでいたときのように、便利な生活を目指した。地球にいたころと同じように、通信機器をはじめ、ロボット開発なども続けて行い、テレパシーでコミュニケーションをとる方法なんてのも研究していた。しかし、やはり自然の摂理にはかなわぬ。種を増やしつつある人間じゃったが、ここは宇宙。もともと人間が住む場所ではなかったのじゃ。人間はわずか100年あまりで途絶えてしまった…」
 老婆は周りのものたちをゆっくりと見渡した。
「欲望を抑えきれなかった人間は、やがて利益や損得だけを重視し、血が通っていないかのように、人としての心を持たぬようになってしまった。そしてその人間が、研究に研究を重ねて作り上げたロボットが、心を持ち始めるとは…」
 老婆は自分を囲み、静かに話を聞くロボットたちを見渡した。
 ロボットたちは、純粋な眼をしていた。

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