小説

『光の果てに』あいこさん(『竹取物語』)

 我ながら、感情とは不思議なものだと茜は思った。さっきまでの思いはもうなかった。声に出さずとも「ははっ」と心の中で笑いがでた。ばかみたい。別に人は人でいい。自分は自分だ。みな生まれたときから環境だって違うし、それなりに生きて行けばいい。うらやましいなんて思わない。みんな、身にまとったスーツの下にストレスを隠し続け、溢れだしたストレスがこぼれ落ちそうになったら、こんどは時計やカバンや装飾品でくい止める。私はそういう生き方を選ばなかっただけだ。
「はぁ―――」
 茜はまた深くため息をつき、ぼんやりと空を眺め続けた。眺める先に、まるでこちらに向かって光っているかのような灯りが見えた。なんだろう。星だろうか。いや、それにしては大きい。遠くにある民家か、街灯なのか。薄暗い月明かりの中では、その光しか見えない。何でもいいや。茜はそう思いながら、こうも思った。
―でももし、それが何か特別な光だったとしたら。
 バカだと思いながらも、茜はそう思わずにはいられなかった。そう思うことで、自分を何かが救ってくれる気がした。茜はみんなの清々しい姿を浮かべた。そしてこう願った。
 私の願いはただひとつ。みんなが、誰もが、どう頑張ったって手に入らないものをください。誰にも手に入れることができないもの。それを私が、私だけが手にするんだ。
 茜の願いに応えるかのように、光は輝きを増しながら近づき、やがて大きく茜を包み込んだ。

 
「あとから思えば、その光がわしに不思議な力を与えたんじゃ…」
 頭から足の先までしわくちゃの老婆が、ぼんやりと遠くを見ながら言った。
「おばあさん、そのときは気づかなかったの?」
「痛みはなかった?」
「いつごろ、その光の力に気づいたの?」
 肘掛イスに座った老婆を囲みながら、みんなが次々に質問した。
 老婆は水を一口飲んで、話を続けた。
「痛みはなかったし、その時は、ただ寝ぼけていただけか、自分でも少し頭がおかしくなったと思ったよ。なにせ、働きもせず一日中家でごろごろしている毎日だったからね。光の力に気づいたのは、ずっとずっと先さ。それでは、続きを話すとしようか」
 老婆は、肘掛に肘を置き、しわくちゃだらけで固まったような両手を組んだ。
「そのあと、わしは両親の言う通り、地元の小さな建設会社に入ったよ。これも社長が両親の知り合いでね。何とか事務として雇ってもらったんだよ」

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