寒原は人気のない路上喫煙所で白煙を吐いた。
暗闇で赤く燃える火は舞衣の双眸を思い起こさせる。喉奥に揺蕩う煙は、心なしかいつもより苦い。
何気なく見上げたビルの壁面に掲げられた広告に、寒原は苦笑した。
「なるほど、サロメか」
なかなか過激な演出の舞台のようだ。大きく印刷されたタイトルと劇場名が、薄衣一枚を纏っただけの女優の体の肝心な部分を絶妙に隠している――露な胸にくびれた腰、そして目元を。
古代ユダヤの王女サロメ。酒宴でその身に纏う衣を一枚ずつ脱ぎ捨てながら踊り、観客を虜にして喝采を浴びた。
しかしそれは、ただの余興では無かった。
高貴な踊り子が求めた褒美は――彼女の幼くも激しい恋心を拒絶した男の、命。
サロメは愛しい男の生首を掲げ、狂喜しながら接吻したという。
「君は一体、何を捨てて、何を手に入れるつもりなのかな」
吸殻を灰皿に押し付けて、寒原は再び広告を見上げた。
踊り子は稚い唇をうっとりと半開きにして、塞がれた目で何処か遠くを見つめていた。