エリは十四歳だった。無知で無鉄砲で、無垢な子どもだった。
エリの葬式は寒い日だった。両親が離婚して以来久しぶりに顔を見た妹は、骨に皮が直接張り付いているかのように痩せて小さくて、どんなに花を詰め込んでも棺の隙間は埋まらなかった。心を病んで、最後には食事も受け付けなかったらしいと誰かが囁いていた。
舞衣は何も知らなかった。棺には入れられないからと火葬場で返却された、エリの携帯電話の中を見るまでは。
『おねえちゃん、あたし好きなひとができたんだ[ハート]。すごくやさしいひとなんだよ♪』
『友だちはオジサンだって馬鹿にするの!先生は全然オジサンっぽくないのに(`△´)背も高くて、とにかくカッコいいんだから[キラキラ]おねえちゃんにも会ってほしいな』
『先生とドライブして、それでね、キスされちゃった(≧▽≦)すごくドキドキした[ハート][ハート][ハート]』
『おねえちゃん、あのね、この間、先生と……』
『どうしよう。アレがこないの。もしかして、でも、先生、大丈夫だって言ったのに』
『あの話をしてから、先生が返事くれない。電話も出てくれない』
『おとうさんにばれた。あしたから入院だって』
『おねえちゃん』
『たすけて』
未送信ボックスに、エリの悲鳴が溢れていた。
――どうして、送ってくれなかったの。
舞衣はそれを全て、震える手で自分のアドレスに送った。
その日から舞衣の心臓には大きな穴が空いている。そこは暗く寒く、冷え切った風が傷口を永久に凍りつかせていく。
それは、あの日の式場の冷たい隙間風だ。
その風は、時折激しく吹き抜けて舞衣の背中を強く押す。エリのような子どもたちをこれ以上増やさないために刑事になると決めたとき。エリが痩せた体で必死に産み落とした忘れ形見と、施設で対面したとき――その幼い顔にエリではない面影を見出して、足が震えたとき。
あの男を見つけ出すその日まで、それが止むことは無い。
でも、きっともうすぐだ。
「待っててね、オオタセンセイ」
わたしの運命のひと。
画面に再び表示した写真に、舞衣はそっと唇を落とした。