出会い系サイトなんて期待できないと思っていた太田だが、予想外の幸運に魂が狂喜するのを感じる。
「可愛いね」
思わず声に出てしまい、太田は一瞬焦る。その子は太田の視線の先を辿ると、片足の踵を立てて得意げに笑った。
「お気に入りなの」
きっと靴のことを言われたと勘違いしている。太田は誤解を訂正せずに笑い返す。
まさに運命の出会いだ。この子こそ、本命の彼女にふさわしい。
もちろん、太田は今までの彼女たちのことも十分に愛してきた。今の本命の彼女のことも愛おしく思っている。しかし残念ながら、皆どこかに欠点を抱えていることは否めない。カオルコは色白でさらりとした肌が素晴らしいが、あのおちょぼ口は頂けない。ユリカは形は悪くないが、骨が少し太すぎる。リナはカオルコの逆で、あどけない笑顔は悪くないのに足は無様なO脚だ。
それに比べて、この子の完璧さといったらどうだろう。食事のその先が待ち遠しくて、太田の掌は既にじんわりと汗をかいている。
もっとこの子の声が聞きたい。太田は話題を探す。
「ねえ、エリちゃん。どうして僕にメールくれたの?」
登録したきりろくにチェックもしていなかった出会い系サイトで、先に連絡をくれたのはその子の方だ。
その子は少し黙り込む。
そして黒々とした瞳を太田に向け、微かに口角を上げる。
「わたし、探してるの。運命のひと」
先程のように無邪気な笑い方ではない。
虫を誘い込む蜜をとろりと香らせる、大輪の花のような。
「あなただったらいいな」
太田は再び唾を飲み下す。
ああ――この子が欲しい。どうしても欲しい。
あの華奢な足首。まろい骨。舐めたらどんな味がするだろう。奥歯で挟んで、じわじわと噛み砕いたらどんな音がするだろう。
鞄を握る手に力を込める。
「そう……僕も同じだよ」
さあ、夜はこれからだ。