「なんだよこれ、すげえ……」
星の海の中心に、俺と晴樹はただ立ち尽くした。
「今日は特別きれいに見えるね。なんだか、ここにいると人間て本当にちっちゃな存在だなって思うよね」
「本当だよな」
「こんな広い宇宙の中で、自分たちが勝手に作ったルールに縛られてさ。たったの八十年だよ。一瞬。悩んで苦しんでさ。ばかみたいじゃない?」
「本当だよ……」
言葉にならなかった。この世界が始まって何十億年という時がたっただろう。俺が生きている時間なんてほんの一瞬だ。その一瞬を、悩んで苦しんで、逃げ出して、なんてばかばかしいのだろうか。
「でもさ、そんなちっぽけで一瞬の時間でも、それがあるおかげで夢を見ることができる。悩んだり、苦しいこともあるけど、ほんの一瞬でも、生きていなくちゃ何も始まらないんだ」
どれくらいの時間、無言でそこにいただろうか。
「星也が俳優になってくれないと、僕の夢は叶わないよ。でも僕がそれを夢に思えるってことは、ね、あとはさっき言った通りだ」
発車時刻を知らせるメロディが流れた。銀河モノレールのヘッドライトが点灯し、銀杏島へと続く細いレールをコバルトブルーの海の上に浮かび上がらせた。
「さあ。行こう星也」
晴樹は笑顔で俺の背中を押して、俺の体を列車に押し込んだ。俺の背後で扉の閉まる音がする。振り返ったとき、晴樹は天の川展望台のホームに一人残って立っていた。
「晴樹?」
俺は乗車扉に張り付いた。晴樹はにこりと笑顔を見せると軽く手を挙げて言った。だが晴樹の声はもう、車内の俺には聞こえなかった。
――バイバイ――
晴樹の口元がそう動いた気がした。