小説

『銀河モノレールの海』梅屋啓(『銀河鉄道の夜』)

「ま、申し訳ないけどそりゃ叶わぬ夢になりそうだ」
「星也はさ、なんで俳優になりたいと思ったの?」
 なんで。それは、口にするにはあまりにも恥ずかしい、子供じみたちっぽけな理由だった。
「いや、なんか、有名人になりたくて」
 俺は呟くように答えた。
「でもさ、有名になりたいだけなら俳優じゃなくてもいいんじゃない?僕みたいに小説家を目指すんでもいいし、ノーベル賞とかでもいいじゃん」
「そりゃ無理だろ。俺、晴樹みたいに文才ないし。ノーベル賞もらえるほど勉強できないし」
 俺がそう言うと晴樹はにこりと笑って僕を指さした。
「でしょう。星也はさ、何をすれば自分が有名人になれるのかちゃんとわかっているんだ。人間はね、叶わない夢を描かないんだって」
「そうかなあ」
「そうそう。星也、海は好き?」
「あ、まあ……」
 何が言いたいのだろうか。俺は窓に広がる海に目を向けた。今何時くらいだろう。抜けるような青い色がどこまでも続いていた空と海を、少しずつオレンジ色の光が支配し始めていた。それでも、海面に反射する光は、相変わらずきらきらと星のように無数に輝いていた。
「例えば、酸素ボンベを着けないで海底を散歩したいと思う?」
 何を言ってるんだこいつは。そんなの無理に決まってるじゃないか。小学生だってわかる。
「魚じゃないんだから」
「だよね。じゃあ潜水艦を作って、それに乗って海底散策なら?」
「それはちょっと興味あるかもな。俺の頭じゃ難しいだろうけど」
「うん。でも不可能じゃないって思うよね。つまりさ物理的に不可能だとわかっていることを人間は夢に描かないんだ。だから星也は自分が俳優になれるってことを自覚している。今はその過程に迷っていたり、焦ってるだけじゃない?」

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