晴樹は変わっていなかった。花や星や野生動物を見ては女の子みたいな感想を恥ずかしげもなくさらっと口にするのだ。ただその表現力やボキャブラリィの多さは素晴らしく、小学校時代から作文のコンクールでよく賞をもらっていた。将来は作家になるのが夢だなんて言っていたっけ。
「作家、まだ目指してんのか?」
久しぶりの再会で話題に詰まった俺は、思い出したようにそのことを切り出した。晴樹は驚いた顔で俺の方を見た。
「うわ。よく覚えてるね、そんなこと。でもまあ、なかなか難しいよね」
「投稿したりしてるのか?」
「ちょいちょいね。でも全然ダメ。一次選考通過が精一杯だなあ。最近は十代でもみんなすごく上手いから。やっぱり経験の差かな。僕、高校の三年間以外はずっと島から出たことないし。日の目を見たのは地方紙のちっちゃいコラムくらい」
「え。新聞に載ったの?俺から言わせりゃそれでも十分すごいんですけど」
「小さな一歩ってやつ?星也もまだ頑張ってるの?俳優の夢」
俺の体がぴくりと反応する。小さな島で生まれ育った俺は、いつか本土で暮らすのが夢だった。十五年間を離島に閉じ込められていた反動だったのだろう。俺という人間が存在していることを、皆に知ってもらいたかった。有名になりたい。そんな子供じみた理由から俺は俳優を目指した。けれど現実は甘くなかった。今日このモノレールに乗ったのは、思うようにならない現実からの逃避だった。
「ま、まあ。それなりに」
俺は濁すように言葉を返した。上手くいっていないことをニュアンスで伝えようとしたつもりだったが、俺の意に反して晴樹は嬉しそうな表情を見せた。
「わぁ。やっぱりすごいな星也。島を出て都会で一人暮らししてるんでしょう?それだけでもすごいって思うのに、その上夢に向かって頑張ってるんだから尊敬しちゃうよね。僕には無理。絶対無理。死んじゃう」
晴樹は腕を組んでうんうんと頷きながら言った。
「ばーか。晴樹が思ってるほど上手くはいってねえんだよ。俳優なんてばかみたいな夢見て出てったもんだから、親も呆れて仕送りもないしな。バイトしながら養成所通うのも大変なんだよ」
「やっぱりお金かかるの?俳優になるのって」